桃の花　　　　　　　　　　　　　　　　　　

通勤の行き帰りにイヤホンで、ズカドン・ズカドンの若者音楽を聴いている。大衆社会の孤独、通勤電車の沈黙集団のなか、頭髪薄いおっさんの頭蓋骨の中でハイテンポの音が、夢を語らい憂いを吹っ飛ばす。

車中ひとしきり聴き終えると、オーバーコートのポケットから小さく折り畳んだ朝刊を取り出し、メガネを額にずりあげていつもの見慣れた個所を読む。仕事関連の記事は後回し。だって、ズカドン気分がもったいない。この通勤時間帯まだ給料もらってない。　　　　　　　

釣り好きには、短気でわがままな者が多い。大自然のなか、海・川に遊ぶ楽しさを知る者は、現代都会の混雑に肌が合いにくいのではないか。

月曜日は苦手だぁ。

自然派釣り師から不況社会のサラリーマンへの変身に、なかなかもって骨が折れる。ポッキンポッキン骨折ってサラリーマンへ、夕刻その骨を接ぎつつ帰宅。骨抜き骨接ぎは立ち飲み屋で、地下乗換駅改札口前の串カツ屋だ。酒は詩を釣る針、うれいを掃(は)く箒(ほうき)。酒のあては串カツ・チュウリップ。骨つき鶏肉の先端をパン粉の中でギュッと押さえると、肉が広がって油で揚げた姿が見た目チュウリップ。チュウリップ一輪かじってナマ飲んで、ズカズカドンドン聴いている。今日は桃の節句雛祭り。だが桃の花は一か月後。　　

毎年クリスマスの頃生まれるはずのイカナゴが、今期は正月半ばの誕生だ。生育が遅れていたが春の気配にようやく息を吹き替えしつつある。

生きイカナゴはメバル釣りの特効餌。餌屋での初顔見せは来週か。売値いくらにいたしましょう？　例年どおりなら一合五百円。